飲食店は個人事業でよいか

資本主義が株式会社や有限会社によって発達した歴史から、法人形態をとった方が事業が伸びることは誰もが直感的に分かることかと思います。実際に、なるべく法人化することをお勧めしています。

しかし、予算の都合もあって個人事業で開業したいこともありますし、実際にドイツの飲食店で個人事業形態で営業しておられるお店はたくさんあります。

そこで、まずは最初に飲食店を個人事業で始めるための条件をお示しした上で、個人事業のメリットとデメリットを整理してみたいと思います。

ドイツで飲食店を個人事業で開業する条件

  • 自営業可能なビザがあること
  • アルコール提供申請も含めて事業登録ができること
  • 物件賃貸はもちろん、必要な場合は融資を受けることができる信用力(SCHUFA など)

ドイツで飲食店を個人事業でおこなうメリット

1. 設立費用と時間の節約

法人を設立する場合には、資本金を積まなくてはなりません。有限会社の基本出資金は原則として 25,000 ユーロ以上です。これは実は自己資本であって費用ではありませんが、オープニングバランスとして一度は積まなくてはならない金額です。また、そのほかにも本当に設立にかかる費用もあります。

また、法人設立は登記事項であることから、公証人のもとでの定款等の署名、商業登記裁判所での審査・登記、法人用銀行口座開設といったプロセスが長く、通常は 3-4ヶ月かかります。(ご参考「ドイツ会社設立の手続き」

個人事業ですと、事業用銀行口座は開くべきものの、その他の手間は事業登録(アルコール申請も含む)と税務・労務登録のみで済むことになります。(「手続き工程表」の ⑥ 以下のみ)

2. 会計費用の節約

法人にしますと、年度決算の義務があります。年度決算は税理士によって締められなくてはならないので、月次決算から税理士に依頼する必然性があります。個人事業ですと、ある程度のドイツ語力と税務知識さえあれば自分で完結することもできますので、もし人任せにせずに自分でやれるのならば、税理士費用が大きく違ってきます。

なお、月次決算(売上税の予定納税・還付 Umsatzsteuervoranmeldung)は、個人事業であっても法人であってもある程度の売上規模に達すれば、いずれにせよ毎月の申請が必要です。

ドイツで飲食店を個人事業でおこなうデメリット

1. リスクが無限責任になる

株式会社や有限会社のような法人組織のよさは、有限責任であることです。すなわち、いざというときは会社を潰してしまえば、資本金の範囲の損害で収まります。しかし、個人で事業を行うと債務はすべて個人に紐づきます。

リスクのあるポイントは以下の通りです。

  • 賃貸契約は5年から10年の長期が普通である
  • 経営不振で赤字が続いた場合(特に借入のある場合)
  • 店舗における事故の責任(火災、食中毒、近隣住民からの損害賠償など)

このうち最後の、店舗における事故のリスクについては、保険にしっかり入るようにお勧めしています。日本人の保険業者をご紹介することもできます。

2. 税率が高い

利益があがると、法人税よりも所得税の方が税率が高くなります。個人事業の方が社会保険の毎月の支払額を減らすことはできますが、それ以上に毎年の所得税の支払い額が大きくなります。これは利益の大小によります。

3. あくまで個人名。信用面で弱い

銀行口座、従業員との労働契約書、業者からのインボイスなど、すべてが個人名宛になります。店名など商号をつける自由はありますが、オフィシャルな名称には必ず個人名を含まなくてはなりません。

個人でもほとんどの業者とは取引ができますし、銀行融資を受けることは可能です。しかし、一般には法人と比べて信用や評価が下がります。

【まとめ】ドイツ飲食店・個人事業でよいか

以上のように、もし資金があるならば法人にしておいて、自らは資本家として有限責任の立場にいた方が望ましいことがお分かりいただけたかと思います。

最初は個人事業で始めておいて途中から法人化するハイブリッド案もありますが、その際の移管の手間と連続性の喪失が無視できません。詳しくはご相談ください。

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