飲食店プレゼン資料づくり

はじめに(飲食店のプレゼンテーション資料・事業計画書はいつ必要か)

飲食店経営では、プレゼンテーション資料は事業計画書を用意しなくてはならないとき・用意した方がよいときがあります。それは一体どのようなときでしょうか。

ケース1)店舗物件賃貸のために貸主に対してプレゼンテーションすべきとき
ケース2)銀行融資を受けるときに銀行に対してプレゼンテーションすべきとき

以上の2ケースです。それぞれ内容は似ていますが、特に後者は難易度が高くなります。以下、具体的にご説明します。

ケース1)賃貸店舗物件取得のための貸主向け

賃貸契約のための資料は、提出義務があるわけではありませんが、希望の物件の借り手として選ばれるためには非常に重要です。経験上、有効な資料があるのとないのとでは、貸主審査の結果に大きな違いがあります。

なお、物件契約の流れや提出義務のある書類については、「ドイツ飲食店開業の手続き」をご参考になさってください。

さて、プレゼンテーションに最低限載せるべき事項は以下の通りです。

  1. コンセプト
  2. 主力商品(たとえばラーメンとは何か)
  3. 市場分析・競合分析
  4. 代表者プロフィール
  5. 収支計画

貸主の目線で考えますと、気になるのはまず周囲の飲食店と提供するものが重なっていないかです。同じ貸主が近くに数物件持っていることも珍しくないので、そもそものバッティングのあるコンセプトだと断られることが多くなります。また、場所柄と提供するものの相性も当然に考慮されます。

また、貸主は当然に安定した家賃収入を期待しますから、どれだけの収益性のある事業をするのか、代表者は信頼できる経歴のある人物なのかを知る必要があると考えます。

賃貸物件向けのプレゼンテーション資料は、パワーポイントで作成するのがよいでしょう。

もちろんプレゼンテーション資料だけで物件が取得できるわけではなく、上述のような周辺状況や SCHUFA などの信用情報が重要になってきます。

ケース2)融資を受けるための銀行向け

政府系銀行  KfW はじめ銀行融資を受けて起業する方も少なくないと思います。次はその場合の資料のポイントをご説明します。このときの資料は、ドイツ語でも Business Plan と英語で呼ばれます。

まず、ドイツでは重要度が高くオフィシャルな性格なものほど、文字でビッシリと書きます。したがって、賃貸物件向けの資料のようにパワーポイントで作るのではなく、Business Plan  の場合は文章部分はワードで書きます。

内容は賃貸物件向けのものと同じ構成でよいですが、内容はかなり膨らませます。少なくとも 20ページぐらいは目指したいので、商品説明では歴史から、代表者プロフィールでは職歴や技能を、みっちり書きます。

そして肝心なのは数字面(収支計画など)です。これはエクセルで作ります。以下の三種の財務諸表がこの分野での「お約束」です。

  • Kapitalbedarf(必要資金額)
  • Rentabilitätsplan(収益性計画・3年分が普通)
  • Liquiditätsplan(流動性計画・3年分が普通)

もちろん Business Plan だけで融資が下りるわけがなく、そもそもの事業の中身と SCHUFA などの信用情報が重要なのは言うまでもありません。

おわりに(プレゼンテーション資料作成上の注意事項)

最後にプレゼンテーション作成上の注意をお伝えしておきます。

ドイツ語はネイティブに訂正してもらうべきです。ドイツは文化的に保守的ですし、公式な言葉は(裁判も含めて)ドイツ語という法律があるように、公式なものになればなるほどドイツ語で行います。かつ、ネイティブの感覚で見ておかしなドイツ語ですと、正直なところ低く見られます。「B2 に受かった」ぐらいのドイツ語が少しできる方に限って、逆にこの社会文化的な深みを軽視してしまう傾向があるのでご注意いただきたいと思います。

英語は国際語なので多様性があって、きれいな英語でなくても受け入れられやすいですが、ドイツ語に同じ連想は当てはまりません。

では、英語で作成してもよいかと聞かれることがありますが、銀行はもちろん不動産物件の貸主でも法人であれば 3-4人は目を通すことになります。ドイツは英語が通じやすいとは言え、全員がドイツ語と同じ感覚で英語の書類を受け入れてくれるかというと、そうではありません。したがって、目的達成のためには効力が下がってしまうと思われます。

その他の注意点としましては、自らの事業をドイツ人に魅力的に伝えるポイント、簡易版でも損益計算書を作れる財務知識も必要です。当社ではプレゼンテーション資料作りの外注も承っていますので、ご関心ある場合にはお気軽にご相談ください。

飲食店は個人事業でよいか

資本主義が株式会社や有限会社によって発達した歴史から、法人形態をとった方が事業が伸びることは誰もが直感的に分かることかと思います。実際に、なるべく法人化することをお勧めしています。

しかし、予算の都合もあって個人事業で開業したいこともありますし、実際にドイツの飲食店で個人事業形態で営業しておられるお店はたくさんあります。

そこで、まずは最初に飲食店を個人事業で始めるための条件をお示しした上で、個人事業のメリットとデメリットを整理してみたいと思います。

ドイツで飲食店を個人事業で開業する条件

  • 自営業可能なビザがあること
  • アルコール提供申請も含めて事業登録ができること
  • 物件賃貸はもちろん、必要な場合は融資を受けることができる信用力(SCHUFA など)

ドイツで飲食店を個人事業でおこなうメリット

1. 設立費用と時間の節約

法人を設立する場合には、資本金を積まなくてはなりません。有限会社の基本出資金は原則として 25,000 ユーロ以上です。これは実は自己資本であって費用ではありませんが、オープニングバランスとして一度は積まなくてはならない金額です。また、そのほかにも本当に設立にかかる費用もあります。

また、法人設立は登記事項であることから、公証人のもとでの定款等の署名、商業登記裁判所での審査・登記、法人用銀行口座開設といったプロセスが長く、通常は 3-4ヶ月かかります。(ご参考「ドイツ会社設立の手続き」

個人事業ですと、事業用銀行口座は開くべきものの、その他の手間は事業登録(アルコール申請も含む)と税務・労務登録のみで済むことになります。(「手続き工程表」の ⑥ 以下のみ)

2. 会計費用の節約

法人にしますと、年度決算の義務があります。年度決算は税理士によって締められなくてはならないので、月次決算から税理士に依頼する必然性があります。個人事業ですと、ある程度のドイツ語力と税務知識さえあれば自分で完結することもできますので、もし人任せにせずに自分でやれるのならば、税理士費用が大きく違ってきます。

なお、月次決算(売上税の予定納税・還付 Umsatzsteuervoranmeldung)は、個人事業であっても法人であってもある程度の売上規模に達すれば、いずれにせよ毎月の申請が必要です。

ドイツで飲食店を個人事業でおこなうデメリット

1. リスクが無限責任になる

株式会社や有限会社のような法人組織のよさは、有限責任であることです。すなわち、いざというときは会社を潰してしまえば、資本金の範囲の損害で収まります。しかし、個人で事業を行うと債務はすべて個人に紐づきます。

リスクのあるポイントは以下の通りです。

  • 賃貸契約は5年から10年の長期が普通である
  • 経営不振で赤字が続いた場合(特に借入のある場合)
  • 店舗における事故の責任(火災、食中毒、近隣住民からの損害賠償など)

このうち最後の、店舗における事故のリスクについては、保険にしっかり入るようにお勧めしています。日本人の保険業者をご紹介することもできます。

2. 税率が高い

利益があがると、法人税よりも所得税の方が税率が高くなります。個人事業の方が社会保険の毎月の支払額を減らすことはできますが、それ以上に毎年の所得税の支払い額が大きくなります。これは利益の大小によります。

3. あくまで個人名。信用面で弱い

銀行口座、従業員との労働契約書、業者からのインボイスなど、すべてが個人名宛になります。店名など商号をつける自由はありますが、オフィシャルな名称には必ず個人名を含まなくてはなりません。

個人でもほとんどの業者とは取引ができますし、銀行融資を受けることは可能です。しかし、一般には法人と比べて信用や評価が下がります。

【まとめ】ドイツ飲食店・個人事業でよいか

以上のように、もし資金があるならば法人にしておいて、自らは資本家として有限責任の立場にいた方が望ましいことがお分かりいただけたかと思います。

最初は個人事業で始めておいて途中から法人化するハイブリッド案もありますが、その際の移管の手間と連続性の喪失が無視できません。詳しくはご相談ください。

ドイツ飲食店開業の費用

飲食店の開業のプロセスについて書きましたが、出店費用も同様に大きな問題です。特に独立起業しようという方には、金額の多寡に応じて独立スケジュールが変わってこようかと思います。

以下では費用の種類を3つに分けて解説します。

1)店舗初期費用

現実には、店の規模や業態によっても、設備や内装にどれほどお金をかけるかによって大きく違ってきます。店舗の初期費用は、100万ユーロ以上かける方から、5万ユーロ以内で収める方までマチマチです。

そこでここでは、主な項目を列挙しておきます。

  • 買取費用: いわゆるスケルトン状態での物件取得ではなく、前テナントがまだ賃貸している場合は、前テナントから設備買取費の名目で営業権(のれん代 / Abstand または Ablöse といいます)を払うことが一般になってきました。都市によって相場に大きな開きがありますが、主要都市であれば通常は 5万ユーロは安い方で、10万ユーロから20万ユーロ、大型物件では50万ユーロ以上する場合も増えてきました。
  • 敷金: 通常は基礎家賃 Cold rent の3ヶ月分ですが、商業物件の場合は6ヶ月など長めの場合もありますので、ご注意ください。
  • キッチン大型設備: ダクト Ablüftungshaube とグリーストラップ Fettabscheider が物件に備わっていない場合は投資が必要です。ダクトは必要火力に見合った出力とパイプの口径に注意が要ります。グリーストラップの規制は州によって異なります。また、倉庫や冷蔵室 Kühlzelle が必要な場合もあると思われます。
  • キッチン一般設備: コンロ、フライヤー、冷蔵庫、冷凍庫、食器・グラス洗い機、流し、作業台が基本。
  • 工事監督・デザイン(適宜): 高いですし必須ではありませんが、時間にも仕事にもルーズなことが多い工事業者に対してプロの監督は有用です。建築士やデザイナーにお願いすることもあります。
  • 内装工事: Trockenbau というのが床やカウンターなどの工事になります。壁塗りや電装の整備(照明と音響)も重要です。
  • 外装工事: ファサードは専門業者がいますが、このとき重要なのは建築局の許可までとっておくことです。
  • テーブル、椅子
  • 調理器具、食器、グラス類
  • IT機器類
  • ユニフォームなど

2)一般開業費用

開業にあたってかかるのは物件費用だけではありません。事務面での設立準備にも費用がかかります。特に大きな支出項目はありませんが、お示ししておきます。

3)運転資金(ランニングコスト)

物件賃貸や人材採用から何ヶ月でオープンして、営業が軌道に乗るかによって、準備の必要な月数が変わってきます。「ドイツ飲食店開業の手続き」で書きましたように、開店までだけでも3ヶ月から6ヶ月までは想定が必要です。

その間の固定費はランニングコストとしてカバーする準備が必要です。

  • 家賃: 商業用では付加価値税 VAT (現行 19%)がつくこともありますので、ご注意ください。
  • 光熱費
  • 人件費: 社会保険の雇用者負担部分が2割ありますので、額面金額の1.2倍 (ミニジョブの場合は 1.3倍)を想定しましょう。
  • 通信費
  • 広告宣伝費
  • (適宜)自動車などのリース費用

以上、開店費用を3分類してご説明しました。実際には物件や業態によって大きく違ってきますので、ご注意ください。

ドイツ飲食店開業の手続き

2013年に「ユネスコ無形文化遺産」に指定された和食。ドイツでも成長産業です。

「店舗を開けたいのだけど、何から手をつけたらよいのか手順が分からない」「開店までに何ヶ月かかるのか」と、ご相談をよく受けます。所要時間は必要な許認可の種類、改築の程度によって大きく違うのですが、ここでは以下のように店舗獲得の前と後とに分けて、概要をお示しします。

1)ドイツ飲食店開業。店舗獲得(賃貸契約)のために必要なこと

店舗の賃貸契約を成立させるまでの過程を逆算して示します。

賃貸契約成立
(その後に、敷金、仲介手数料、初期家賃など振り込み)
 ↑
物件審査通過
(一般に求められるものは、プレゼンテーション資料、個人信用情報 SCHUFA会社信用情報 Creditreform、パスポート・ビザや住所といった基礎的個人情報、など)
 ↑
物件捜索・発見・申し込み決定
 ↑
事前準備
(コンセプト策定、都市決め、事業形態決定《個人か法人か》、契約住所確定)

以上が標準的なフローチャートです。

注意したいのは、物件申し込みの時点で、貸主からの審査に耐え得るコンセプトや事業モデルがあること(よい物件ほどセレクションは熾烈です)、事業形態と住所が決まっていること(審査ならびに契約書作成のため)、初期費用の準備があることです。詳しくはご相談ください

気になる所要時間ですが、これは「ご縁」次第になります。経験的にはわずか1週間で発掘・申し込みから契約に至った奇跡のような例もありますが、それは単に運がよかっただけでなく、コンセプトや店舗設計のイメージが元々固まっていたこと、提出資料が既に揃っていたことなど、事前準備が先にできていたから可能となりました。

2)ドイツ飲食店開業。店舗獲得(賃貸契約)後にやること

  • (必要な場合)用途転用 Nutzungsänderung 申請
  • 内外装工事と設備の買い入れ・設置
  • 人材採用・衛生局資格取得
  • アルコール提供 Alkoholausschank 許可の申請
  • メニュー策定や仕入れ先確保
  • ファサードについての建築局申請

賃貸契約締結後には、一般的には家賃がかかるので、早く開店まで運びたいところです。たしかに早い例では2ヶ月以内でオープンできた経験がありますが、一般的には3ヶ月から半年程度かかってしまうものです。特に工事業者のアレンジや監督がボトルネックになることが多くあります。

また、一番上に挙げています用途転用がうまく進まず、賃貸開始から2年以上オープンできなかったケースを聞いたことがあります。

サポートが必要な場合は、お問い合わせください

飲食店のアルコール許可

ドイツ・飲食店のアルコール提供許可申請で注意すべきこと

飲食店を開業するにあたり、アルコールを提供するには特別の事業登録が必要です。
(ご参考「ドイツ飲食店開業の手続き」

普通にドイツに暮らしていては一度も接点をもたないような特別な書類をいくつも要求されて、吐き気を催す方が少なくありません。

しかし、役所での事務処理に一般的に 4-6 週間かかりますので、オープニングに先立って余裕をもって申請を提出しておく必要があります。

ドイツ・飲食店のアルコール提供許可申請に必要な書類

必要書類は、その年と州によってやや異なってきますので、その都度確認が必要です。

しかし、基本的には以下のようになります。

  1. Führungszeugnis 犯罪証明書(個人の場合のみ)
  2. Gewerbezentralregister-Auskunft 登録内容情報
  3. Auskunft aus dem zentralen Vollstreckungsgericht 執行裁判所からの情報
  4. Bescheinigung in Steuersachen 税務証明書
  5. Personalausweis 身分証明書・パスポート(個人の場合のみ)
  6. Handelsregisterauszug 商業登記簿(法人の場合のみ)

(注)法人の場合は、法人自身と代表者個人について、両方の書類提出が必要です。

最後に

飲食店の開業準備では、店舗改装や従業員採用など多忙を極める中、アルコール提供許可の申請が後回しになりがちです。気づいたら開店前1ヶ月を過ぎていて、アルコールなしの開店かスケジュール変更かを余儀なくされることもあります。早め早めの申請をお勧めしています。