ドイツで現地法人を設立する場合の会社形態を4種類お示ししました。また、ドイツで主流となる会社形態は有限会社であることも触れました。
今回は、その有限会社の特徴について解説したいと思います。教科書的な内容も踏まえてはいますが、実務上の経験も踏まえてまとめてあります。
1)有限会社だけに有限責任である
歴史的に見て資本主義の発展には有限責任の会社という制度が要になっているわけですから、その意味はここで言うまでもありません。
一方、現地法人で選ばれる可能性のある独立支社、非独立支社、駐在員事務所は、法的責任が本店(日本の本社)に及びますので、注意が必要です。
また、他の人的会社(合資会社、合名会社、民法上の組合、個人事業など)は無限責任となりますので、個人事業で飲食店などリスクのある事業を営む場合には、対策が不可欠です。
2)ドイツの有限会社は汎用性が高い
先述の通り、ドイツで大多数を占める法人形態です。したがいまして、設立前後のセットアップがスムーズです。たしかに、定款の作成からオーナーの認証、公証役場での署名の儀式など、書類事務の手間はかかります。しかし、支社や駐在員事務所と違って、あらゆることが「デフォルト」になっていますので、役所や銀行の窓口の人が対応できないとか、ウェブ上で済むはずがコマンドがなくて進めないとか、そういったことはありません。
3)ドイツの有限会社は、株式会社と比べれば簡便である
まず、資本金が 25,000 ユーロと株式会社の 50,000 ユーロの半額でスタートが可能です。しかも当初は 12,500 ユーロからスタートできたり、1 ユーロ起業も可能な UG という制度もあります。
また、株式会社のような監査役会を設ける必要がなく、取締役の人数や任期も自由です(一人でよい)。
したがいまして、株式会社の簡易版と言われることもあります。
4)ドイツの有限会社は信用力が高い
株式の流通を考えない限りはわざわざ株式会社にはせず有限会社を選ぶのが、経済合理性を重んじるドイツの一般的な考え方です。意外な巨大企業が有限会社のままであったりする例もありますので、株式会社の簡易版とは言え、有限会社全体としても信用力は十分であるというのが社会一般の認識です。
またドイツの有限会社は、商業登記裁判所を通して商業登記簿に載せられる、公的存在であることも指摘しておきます。
5)有限会社では税務申告が必須
他の小さめの会社形態と比べますと、税務申告の負担が重くなります。少なくとも年度決算は、原則として税理士に出す必要がありますが、そうしますと月次の付加価値税申告の段階で既に税理士にお願いしておいた方が一般的に合理的です。
6)ドイツの有限会社は解散・精算に時間がかかる
もし撤退や解散を考えることがある場合ですが、その場合には一般的に2年ぐらいの時間がかかります。精算を申告して精算中法人に変わり、それから債権債務の整理を行うことになります。
その点、1)で挙げた他の会社形態の方が、撤退は簡単です。
なお精算人を設ける必要がありますが、現地法人の場合はドイツ在住の誰かに委任することを考えた方が現実的です。
7)有限会社持分には株式のような流通性がない
持分の変更や譲渡には、いちいち公証役場での定款書き換えと儀式が必要です。もちろん、その後に商業登記裁判所経由で商業登記簿が書き換えられます。
そうしますと公証人費用と時間が毎回かかりますが、経験上は頻繁に売り買いをするのでなければ、それほど負担にはならないように感じられます。