アポスティーユとは

アポスティーユとは何か

現地法人の設立など、会社オーナーが日本にある場合、その登記簿謄本に「アポスティーユをつけて」公証人経由で商業登記裁判所に提出する必要がある場合があります。「アポスティーユを取得する」などとも言います。(ご参考「ドイツ会社設立の手続き」

では、「アポスティーユ Apostille」とは何なのでしょうか?

まず、外務省のサイトによる説明は以下の通りです:

「『外国公文書の認証を不要とする条約(略称:認証不要条約)』(1961年10月5日のハーグ条約)に基づく付箋(=アポスティーユ)による外務省の証明のことです。提出先国はハーグ条約締約国のみです。アポスティーユを取得すると日本にある大使館・(総)領事館の領事認証があるものと同等のものとして,提出先国で使用することができます。」(引用終わり)

日本もドイツもハーグ条約加盟国ですので、アポスティーユを用いた書類の認証が可能です。

会社設立実務におけるアポスティーユ

次に、会社設立(現地法人の設立)の実務に合わせて説明します。国をまたいでも文書の正統性が認められるようにするためのものですので、以下のような文書について、アポスティーユを取得する必要が出てきます。

アポスティーユをつけて、提出する書類の主な例

  • 親会社の登記簿謄本・ドイツ語訳
  • ドイツ現地の代表者に対する設立委任状

日本の公証役場から言われてしまう困ったこととその対策

しかし、いざ日本の公証役場に行くと、「公証役場は私文書しか認証できないので、公文書である登記簿謄本にアポスティーユをつけることはできない」と言われてしまいます。そのため、認証してもらえるように別の文書を出します。

日本公証人連合会のサイトによい説明があります:

「会社の登記事項証明書や個人の戸籍事項証明書は、公的機関が作成した公文書ですから、公証人は認証することができません。公文書は発行した公的機関自身が認証すべきものだからです。

では、どうしたらいいか。

それは、嘱託人が当該登記事項証明書等を外国語に翻訳し、その翻訳した人が、「自分は日本語と当該外国語に堪能であり、添付の公文書の記載内容を誠実に翻訳した。」旨を記載した宣言書(Declaration)を作成して署名し、この文書に外国語訳文と登記事項証明書等とを添付した上、その宣言書を公証人に認証してもらえばいいのです。

この宣言書自体は、公文書ではなく、私人が作成した私文書、つまり私署証書であり、公証人が認証することができるのです。」(引用終わり)

上述の「別の文書」とは「宣言書 (Declaration)」のことでした。宣言書は私どもで作成しまして、日本の公証役場に持参していただきます。この例の中にある翻訳人ではなく、会社代表者に署名をしてもらうこともあります。

署名(サイン)について

ドイツは署名(サイン)中心社会

ドイツでは他の欧米諸国と同様、署名が契約の締結に必要となることがほとんどです。日本における印鑑の役割を、署名が果たします。なお、2021年11月の現段階において、電子署名は普及していません。

簡単な契約では印刷・署名・スキャンしたものをPDFの形でメールで交わしたりすることも多い一方、重要な契約になればなるほどオリジナル原紙に手書きでサインすることが重んじられる傾向が残っています。

会社設立についても例外ではなく、有限会社の設立証書には会社代表者が公証役場で直接サインする必要があります。また、日本の親会社からの設立委任状には署名にアポスティーユまでつけてオリジナルを日本から送ってもらう必要があって時間と手間がかかります。(ご参考: ドイツ会社設立の手続き

【おまけ】署名はパスポートと同じサインでよいか

「署名はパスポートと同じサインでよいか?」は、よくいただくご質問です。上述のような会社設立の場合には本人確認書類としてパスポートが重要になってきますので、パスポートと同じサインで行うのが正しいと考えられます。(公証役場での設立証書サインの際には、パスポートのコピーもとられます。)

ところで、パスポートの署名は漢字にされている方も多いと思われます。上記のような場合には、そのまま漢字で署名します。また、漢字は真似がされにくいのでカードの盗難など防犯対策として有効な面があります。しかし、常に必ず漢字で署名しなくてはならないかというと、そうとも限りません。

上記と違って役場を通さないレベルの賃貸契約など一般の契約で(特に田舎の場合は)「何が書いてあるか判じることができない」という理由で、漢字での署名が受け入れられないケースがごく稀にあります。そういった場合、ローマ字・筆記体のサインにしてしまって実務上問題はありません。

また、サインする枚数が多すぎて漢字で書いていられない場合も、同じくローマ字・筆記体にして実務上通るようです。

具体的には、契約の内容や相手方、書類要件などによりますので、相談して進めることが重要です。

会社設立費用への誤解

【誤解】会社設立費用と資本金の混同

会社設立の要件として設立費用が心配されることがあります。特に有限会社について、「25,000 ユーロもの設立費用がかかる」という誤解をよく聞きます。その点をご説明します。

たしかに有限会社の場合、25,000 ユーロは最低限必要な基本出資金(資本金)です。株式会社の場合は 50,000 ユーロになります。

有限会社の例に戻すと、半額の 12,500 ユーロでも一旦は設立が可能なほか、物納出資も(あまり使われませんが)可能です。また、UG という1ユーロ設立が可能な形態もあります。

しかし重要なことは、これらはあくまで資本金であること。設立後はその事業のために使える会社のお金です。費用とみなすのはミスリーディングになります。

現実的にみて、給与支払いや家賃支払い、設備や備品への支出で、25,000 ユーロぐらいは使うものかと思われます。これは自社のために使えるお金であって、設立費用ではありません。

(これとは別に、支社駐在員事務所、個人事業のように、資本金なしで設立できる事業形態もあります。)

では、実際の会社設立費用はいくらか

実際にかかる設立費用には、公証役場や商業登記の費用、必要に応じて法定翻訳、弁護士・税理士・私たちのような外部サービスなどが加わりますが、当然のことながら資本金よりはるかに少なく済みます。具体的には、オーナー構成や会社形態によって大きく違ってきますので、お問い合わせください。

法人銀行口座開設の問題点

いつ法人銀行口座が必要か

ドイツで大多数を占める会社形態である有限会社の設立には、設立時の出資金の振り込み口座が必須です(有限会社の場合は 25,000 € 以上の基本出資金を振り込んでオープニング・バランスとして記録する)。しかし、昨今では法人用口座を開設するのが年々難しくなってきています。

(ご参考「ドイツ会社設立の手続き」

なぜ法人口座の開設は難しいのか

まずマクロ的な問題として、①マネーロンダリング対策と、②マイナス金利のマクロ経済環境があります。そのため、銀行側としては大きなビジネスになる期待のない口座は極力抱えたくない状況になります。

それに加えて、日系企業の場合は代表者がドイツ語でコミュニケーションできないというのが、実務上かつコンプライアンス上の障害となって、口座開設を拒否されることが頻繁に起こっています。

どの銀行で口座開設を目指すか

口座開設をお願いする銀行の種別としては、以下のようになります。日本企業でメガバンクが日本親会社のメインバンクになっていると有利なように見えますが、昨今では邦銀さんも泣く泣く口座開設をお断りすることが多いようです。

  • 邦銀のドイツ支店
  • 一般の銀行(ドイチェバンクコメルツバンクなど)
  • 各地の有力地銀(ドイツでは地銀の評価は相対的に高くなっています)
  • ネットバンク(N26ペンタなど。簡単なようですが、各社ごとにNG要件があるので注意)

法人口座開設・解決策

解決策は以下の通りになります。仮にも資金を預金する側になるので銀行にとっては顧客のはずですが、このマクロ環境では仕方がありません。クライアントの皆様には、それ相応の準備をしていただいています。

  1. 複数の銀行に同時にアプローチする(実際にオープニング・バランス用以外にも、口座は複数必要になるはずです)
  2. 現地代表者だけでなく、会社オーナー情報を全て揃える(日本にいる場合はアポスティーユつきで揃えます)
  3. プレゼンテーション資料も用意する(内容は銀行審査向けであって、いわゆるビジネスプランとは違います)

これだけ準備しても一行も開けなかった場合のために、奥の手を4オプション揃えておりますので、安心してお任せいただければと思います。

具体的な口座開設のプロセスについては、「法人銀行口座開設の手続き」をご参照ください。)

ドイツ会社設立の手続き

ドイツ会社設立の手続きについて

ドイツでの会社設立には、どのようなプロセスが必要で、どれくらい時間がかかるものなのでしょうか?

お取り引き先への通知タイミングを決めるため、従業員の方の派遣・採用のため、会社設立のプロセスと所用時間を把握していることは大切です。

ここではまず親会社が日本にあるドイツ現地法人について、ドイツの主流の有限会社(GmbH)を例に、手順と平均的な所要時間をお示しします

続いて、他の現地法人で使われ得る会社形態独立支社非独立支社駐在員事務所)についても、章を分けて解説します。

また、飲食店開業などで、既にドイツに居る方が有限会社個人事業を立ち上げる場合についても最後にお示ししておきます。

目次

  • ドイツ現地法人設立・手続き工程表(有限会社 GmbH の場合)
  • 【注釈】手続き工程表についての補足事項(同時並行できるもの・時間のかかるもの)
  • 独立支社のケース
  • 非独立支社のケース
  • 駐在員事務所のケース
  • ドイツに既に居る方が有限会社を立ち上げる場合
  • ドイツに既に居る方が個人事業を立ち上げる場合

ドイツ現地法人設立・手続き工程表(有限会社 GmbH の場合)

以下は、ドイツで有限会社を現地法人として設立する場合のプロセスを工程表としてまとめたものです。有限会社が最も一般的な現地法人の設立形態です。(現地法人に関わらず、ドイツ社会で主流の会社形態は有限会社です。

裁判所を通す公的な事務作業であり、法人用銀行口座開設が難しいため、大方の予想よりも時間がかかるプロセスになっていると思います。ただし、これはあくまで平均的な目安であって、スピードアップする余地が各工程に少しずつあるものです。特にお急ぎの場合は、別途ご相談ください

有限会社・設立手順(一部は同時進行可能)所要時間メド
① 定款作成(商号、住所、事業の目的、出資者、出資金額など)、取締役の決定 2週間
② 親会社の登記簿謄本と設立委任状のドイツ語法定翻訳とアポスティーユを取得  4週間
① と ② は同時並行可能
③ 定款・設立証書、登記申請書に公証人オフィスにて署名
(この時点で「設立中の会社」 GmbH i.G. として活動が可能
 2週間
④ 法人用銀行口座開設と出資金振り込み 4週間
⑤ 商業登記裁判所で登記完了(=会社設立完了) 4週間
③ から ⑤ は順序を踏まなくてはならない
⑥ 事業登録 1週間
⑦ 税務登録・番号取得(納税番号、VAT 番号、EORI 番号) 4週間
⑧ 労働局登録・事業者番号取得 1週間
⑨ 労災保険への申請・申し込み 2週間
⑥ から ⑨ も同時並行可能

【注釈】手続き工程表についての補足事項(同時並行できるもの・時間のかかるもの)

上の表の平均所要時間を合計すると、① から ⑤ の商業登記完了までは 16週間で 4ヶ月弱となります。「設立中の会社」 GmbH i.G. として取引や採用が可能になるまでにも 8週間で約 2ヶ月かかる計算になります。

しかし、このうち ① と ② は重要事項が先に決まっていれば同時並行させて短縮することも可能です。したがって「設立中の会社」までなら、1ヶ月そこそこで達成することもなし得ます。そうしますと、他の作業が平均所要時間並みにかかったとしても、3ヶ月で登記(=会社設立)を完了させ、その後の1ヶ月で各種登録を済ませることも可能です。この段取りですと、全工程が4ヶ月で終了します。

一方で、その後の ④ の法人用銀行口座設立や ⑤ の商業登記裁判所での審査や登記事務に、予想以上の時間がかかることもあります。 特に ④ の法人用銀行口座開設が、マネーロンダリング対策強化とマイナス金利下で非常に難しくなっておりクライアントに合わせた対策をとらせていただいております

また ⑥ 事業登録以降の各種登録も、同時並行で進めることが可能です。この中では、税務署の対応に予想以上の時間がかかる可能性が高めです。(必要に応じて日本人税理士をご紹介しています。)

ただし、会社形態の違いや、オーナー・会社代表者の属性によっても、必要書類や所要時間は大きく違ってきますので、詳しくはご相談ください

独立支社のケース

続いて、有限会社以外の会社形態の開設手続きということで、まずは独立支社 Zweigniederlassung についてご説明します。
(ご参考「独立支社とは」

独立支社はあくまで日本の親会社の支店的役割でしかありませんが、ドイツ現地での登記対象になっています。したがって、設立プロセスは有限会社と同じになります。つまり、上の「工程表」の ① から ⑨ 全てを経ますので、有限会社同様に平均的な見積もりで4ヶ月弱程度かかることになります。

ただし、マイナーな会社形態なので、銀行口座の開設が有限会社の場合より困難になることがあります。スムーズに開設できなかった場合の代替案が必要です。

非独立支社のケース

次に、非独立支社 Unselbstständige Niederlassung (Betriebsstätte) の開設手続きについてご説明します。
(ご参考「非独立支社とは」

非独立支社も、あくまで日本の親会社の支店的役割でしかありません。そして、非独立支社の場合は登記の必要がありません。そのため、定款と登記に関わる ①、③、⑤ の段階を省くことができます。

ただし、銀行口座を開けるに当たって、せめて事業登録だけでも済ませていませんと存在を証明するものが不十分ですので、⑥ の事業登録の後に ④ の銀行口座開設に順番を換えることになります。

④ の口座開設は、⑦ から ⑨ の登録・申請作業と同時に行うことができます。したがって、非常独立支社は平均 2ヶ月程度で開設ができることになります。

ただし、独立支社と同じくマイナーな会社形態なので、銀行口座の開設が困難になることがありますので、代替案が必要です。

駐在員事務所のケース

駐在員事務所 Repräsentanz の場合の開設手順について、ご説明します。
(ご参考「ドイツ駐在員事務所まとめ」

営業活動を行うことができませんが、その代わりに簡易に開設できるのが駐在員事務所の魅力です。もっとも簡単に済ませようと思えば、工程表の ⑦ から ⑨ の税務・労務系の登録申請のみで足ります。

ただし、実際には事業登録をしなくては、オフィス賃貸やカーリースで支障が出てきます。そのため事業登録をすることをお勧めしていますが、その場合は上記の非独立支社と同じプロセスを踏むことになります。したがって、平均 2ヶ月程度の完了が想定できます。

銀行口座の開設はやはり困難ですので、代替案を用意しておく必要があります。

ドイツに既に居る方が有限会社を立ち上げる場合

最後に、個人事業の立ち上げ、すなわち個人起業の場合についてご説明します。この章と次章は、日本企業の現地法人ではなく、ドイツに既に居る方が対象になります。

「工程表」と同じ有限会社ですが、オーナー(Gesellschafter / 日本語では「社員」と訳される)がドイツに居るのであれば、② の親会社登記簿・設立委任状の用意が不要になります。

その他の点では、「工程表」の通りですので、② を除いて ① から ⑨ までを経ることになります。そうしますと、現地法人の場合よりは2-4週間ほど早く、平均3ヶ月強での立ち上げが可能と言えます。

ドイツに既に居る方が個人事業を立ち上げる場合

最後に、個人事業の立ち上げ、すなわち個人起業の場合についてご説明します。この章も日本企業の現地法人ではなく、ドイツに既に居る方が対象になります。

まず前提として、個人事業を立ち上げる条件と個人事業のメリットとデメリットを「飲食店は個人事業でよいか」でまとめていますので、ご参照ください。飲食店以外でも、少なくとも自営業可能なビザが必要です。

さて手続きですが、個人事業の開始には事業登録が必要です。したがって、上記の非独立支社と同じプロセスになります。なお、代表者一人の所帯であれば ⑨ の労災登録は省く選択もあり得ます。

飲食店でアルコールを提供する場合は、別の許可が必要ですのでご注意ください。