ドイツ現法4つの会社形態

「どの会社形態を選ぶべきか?」よくいただく相談です。
ドイツにおける海外企業の現地法人として、以下の4つの会社形態が一般的に想定されます。

ドイツ進出・現地法人設立で選ばれる主な会社形態

有限会社 GmbH 
独立支社 Zweigniederlassung
非独立支社 Unselbstständige Niederlassung (Betriebsstätte)
駐在員事務所 Repräsentanz 

(注: この中で法人格を持つのは有限会社だけですが、慣習上ひとまとめに「現地法人」と呼びます。)

先に結論からお示ししてしまいますと、有限会社が選ばれることがほとんどです。これは、ドイツで大多数を占める会社形態です。

ドイツ進出企業の中には、日本のコンサルティング会社から独立支社や非独立支社が薦められることもあるようですが、実はこれらは現地ではあまり使われない会社形態です。そのため、役所の担当者が何も知らなくて設立がかえって難航した例もあります。

逆に、撤退の可能性も含めて簡易的なスタートがよい場合は、駐在員事務所から始める選択肢もあります。ただし、その目的はあくまで市場調査など販売以外に限られます。

とは言え、皆様それぞれの狙いや事情に合った会社形態を選んでいただくのが一番です。そのため、メリットとデメリットを以下のように簡単にまとめておきます。

ドイツ進出・現地法人に選ばれる4つの会社形態

有限会社 GmbH 

  • (メリット)ドイツで大多数を占める会社形態。そのため、設立は容易ではないものの、役所や銀行側で対応するインフラが整っている。また、それだけに銀行や取引先からの信用が得やすい。
  • (メリット)法人として様々な契約行為が可能なほか、従業員のビザ取得にも有効。
  • (デメリット)閉鎖するときには複数年かかる。

独立支社 Zweigniederlassung

  • (メリット)支社として独立して経営・営業活動を行うことができる。
  • (デメリット)商業登記が必要で設立に手間がかかる割には、社会的信用が低い。
  • (デメリット)法人格はなく、一般に従業員のビザ取得には不利。

非独立支社 Unselbstständige Niederlassung (Betriebsstätte)

  • (メリット)商業登記不要なため、設立が容易。(ただし事業登録、税務・労務登録は必要)
  • (デメリット)経営・営業活動・銀行取引は、本社の名義・責任で行う。
  • (デメリット)法人格はなく、一般に従業員のビザ取得には不利。

駐在員事務所 Repräsentanz 

  • (メリット)事業登録が義務ではないため、非独立支社より更にスタートが簡単。(ただし税務・労務登録は必要)
  • (デメリット)売上の上がる営業活動はできない。
  • (デメリット)ドイツでは法的には存在しないため、各会社形態の中で最も契約能力に欠ける。

以上になりますが、現法設立の目的や背景は様々だと思います。具体的なことは直接ご相談ください。

ドイツ会社設立の手続き

ドイツ会社設立の手続きについて

ドイツでの会社設立には、どのようなプロセスが必要で、どれくらい時間がかかるものなのでしょうか?

お取り引き先への通知タイミングを決めるため、従業員の方の派遣・採用のため、会社設立のプロセスと所用時間を把握していることは大切です。

ここではまず親会社が日本にあるドイツ現地法人について、ドイツの主流の有限会社(GmbH)を例に、手順と平均的な所要時間をお示しします

続いて、他の現地法人で使われ得る会社形態独立支社非独立支社駐在員事務所)についても、章を分けて解説します。

また、飲食店開業などで、既にドイツに居る方が有限会社個人事業を立ち上げる場合についても最後にお示ししておきます。

目次

  • ドイツ現地法人設立・手続き工程表(有限会社 GmbH の場合)
  • 【注釈】手続き工程表についての補足事項(同時並行できるもの・時間のかかるもの)
  • 独立支社のケース
  • 非独立支社のケース
  • 駐在員事務所のケース
  • ドイツに既に居る方が有限会社を立ち上げる場合
  • ドイツに既に居る方が個人事業を立ち上げる場合

ドイツ現地法人設立・手続き工程表(有限会社 GmbH の場合)

以下は、ドイツで有限会社を現地法人として設立する場合のプロセスを工程表としてまとめたものです。有限会社が最も一般的な現地法人の設立形態です。(現地法人に関わらず、ドイツ社会で主流の会社形態は有限会社です。

裁判所を通す公的な事務作業であり、法人用銀行口座開設が難しいため、大方の予想よりも時間がかかるプロセスになっていると思います。ただし、これはあくまで平均的な目安であって、スピードアップする余地が各工程に少しずつあるものです。特にお急ぎの場合は、別途ご相談ください

有限会社・設立手順(一部は同時進行可能)所要時間メド
① 定款作成(商号、住所、事業の目的、出資者、出資金額など)、取締役の決定 2週間
② 親会社の登記簿謄本と設立委任状のドイツ語法定翻訳とアポスティーユを取得  4週間
① と ② は同時並行可能
③ 定款・設立証書、登記申請書に公証人オフィスにて署名
(この時点で「設立中の会社」 GmbH i.G. として活動が可能
 2週間
④ 法人用銀行口座開設と出資金振り込み 4週間
⑤ 商業登記裁判所で登記完了(=会社設立完了) 4週間
③ から ⑤ は順序を踏まなくてはならない
⑥ 事業登録 1週間
⑦ 税務登録・番号取得(納税番号、VAT 番号、EORI 番号) 4週間
⑧ 労働局登録・事業者番号取得 1週間
⑨ 労災保険への申請・申し込み 2週間
⑥ から ⑨ も同時並行可能

【注釈】手続き工程表についての補足事項(同時並行できるもの・時間のかかるもの)

上の表の平均所要時間を合計すると、① から ⑤ の商業登記完了までは 16週間で 4ヶ月弱となります。「設立中の会社」 GmbH i.G. として取引や採用が可能になるまでにも 8週間で約 2ヶ月かかる計算になります。

しかし、このうち ① と ② は重要事項が先に決まっていれば同時並行させて短縮することも可能です。したがって「設立中の会社」までなら、1ヶ月そこそこで達成することもなし得ます。そうしますと、他の作業が平均所要時間並みにかかったとしても、3ヶ月で登記(=会社設立)を完了させ、その後の1ヶ月で各種登録を済ませることも可能です。この段取りですと、全工程が4ヶ月で終了します。

一方で、その後の ④ の法人用銀行口座設立や ⑤ の商業登記裁判所での審査や登記事務に、予想以上の時間がかかることもあります。 特に ④ の法人用銀行口座開設が、マネーロンダリング対策強化とマイナス金利下で非常に難しくなっておりクライアントに合わせた対策をとらせていただいております

また ⑥ 事業登録以降の各種登録も、同時並行で進めることが可能です。この中では、税務署の対応に予想以上の時間がかかる可能性が高めです。(必要に応じて日本人税理士をご紹介しています。)

ただし、会社形態の違いや、オーナー・会社代表者の属性によっても、必要書類や所要時間は大きく違ってきますので、詳しくはご相談ください

独立支社のケース

続いて、有限会社以外の会社形態の開設手続きということで、まずは独立支社 Zweigniederlassung についてご説明します。
(ご参考「独立支社とは」

独立支社はあくまで日本の親会社の支店的役割でしかありませんが、ドイツ現地での登記対象になっています。したがって、設立プロセスは有限会社と同じになります。つまり、上の「工程表」の ① から ⑨ 全てを経ますので、有限会社同様に平均的な見積もりで4ヶ月弱程度かかることになります。

ただし、マイナーな会社形態なので、銀行口座の開設が有限会社の場合より困難になることがあります。スムーズに開設できなかった場合の代替案が必要です。

非独立支社のケース

次に、非独立支社 Unselbstständige Niederlassung (Betriebsstätte) の開設手続きについてご説明します。
(ご参考「非独立支社とは」

非独立支社も、あくまで日本の親会社の支店的役割でしかありません。そして、非独立支社の場合は登記の必要がありません。そのため、定款と登記に関わる ①、③、⑤ の段階を省くことができます。

ただし、銀行口座を開けるに当たって、せめて事業登録だけでも済ませていませんと存在を証明するものが不十分ですので、⑥ の事業登録の後に ④ の銀行口座開設に順番を換えることになります。

④ の口座開設は、⑦ から ⑨ の登録・申請作業と同時に行うことができます。したがって、非常独立支社は平均 2ヶ月程度で開設ができることになります。

ただし、独立支社と同じくマイナーな会社形態なので、銀行口座の開設が困難になることがありますので、代替案が必要です。

駐在員事務所のケース

駐在員事務所 Repräsentanz の場合の開設手順について、ご説明します。
(ご参考「ドイツ駐在員事務所まとめ」

営業活動を行うことができませんが、その代わりに簡易に開設できるのが駐在員事務所の魅力です。もっとも簡単に済ませようと思えば、工程表の ⑦ から ⑨ の税務・労務系の登録申請のみで足ります。

ただし、実際には事業登録をしなくては、オフィス賃貸やカーリースで支障が出てきます。そのため事業登録をすることをお勧めしていますが、その場合は上記の非独立支社と同じプロセスを踏むことになります。したがって、平均 2ヶ月程度の完了が想定できます。

銀行口座の開設はやはり困難ですので、代替案を用意しておく必要があります。

ドイツに既に居る方が有限会社を立ち上げる場合

最後に、個人事業の立ち上げ、すなわち個人起業の場合についてご説明します。この章と次章は、日本企業の現地法人ではなく、ドイツに既に居る方が対象になります。

「工程表」と同じ有限会社ですが、オーナー(Gesellschafter / 日本語では「社員」と訳される)がドイツに居るのであれば、② の親会社登記簿・設立委任状の用意が不要になります。

その他の点では、「工程表」の通りですので、② を除いて ① から ⑨ までを経ることになります。そうしますと、現地法人の場合よりは2-4週間ほど早く、平均3ヶ月強での立ち上げが可能と言えます。

ドイツに既に居る方が個人事業を立ち上げる場合

最後に、個人事業の立ち上げ、すなわち個人起業の場合についてご説明します。この章も日本企業の現地法人ではなく、ドイツに既に居る方が対象になります。

まず前提として、個人事業を立ち上げる条件と個人事業のメリットとデメリットを「飲食店は個人事業でよいか」でまとめていますので、ご参照ください。飲食店以外でも、少なくとも自営業可能なビザが必要です。

さて手続きですが、個人事業の開始には事業登録が必要です。したがって、上記の非独立支社と同じプロセスになります。なお、代表者一人の所帯であれば ⑨ の労災登録は省く選択もあり得ます。

飲食店でアルコールを提供する場合は、別の許可が必要ですのでご注意ください。