ドイツ有限会社の特徴7点

ドイツで現地法人を設立する場合の会社形態を4種類お示ししました。また、ドイツで主流となる会社形態は有限会社であることも触れました。

今回は、その有限会社の特徴について解説したいと思います。教科書的な内容も踏まえてはいますが、実務上の経験も踏まえてまとめてあります。

1)有限会社だけに有限責任である

歴史的に見て資本主義の発展には有限責任の会社という制度が要になっているわけですから、その意味はここで言うまでもありません。

一方、現地法人で選ばれる可能性のある独立支社、非独立支社、駐在員事務所は、法的責任が本店(日本の本社)に及びますので、注意が必要です。

また、他の人的会社(合資会社、合名会社、民法上の組合、個人事業など)は無限責任となりますので、個人事業で飲食店などリスクのある事業を営む場合には、対策が不可欠です。

2)ドイツの有限会社は汎用性が高い

先述の通り、ドイツで大多数を占める法人形態です。したがいまして、設立前後のセットアップがスムーズです。たしかに、定款の作成からオーナーの認証、公証役場での署名の儀式など、書類事務の手間はかかります。しかし、支社や駐在員事務所と違って、あらゆることが「デフォルト」になっていますので、役所や銀行の窓口の人が対応できないとか、ウェブ上で済むはずがコマンドがなくて進めないとか、そういったことはありません。

3)ドイツの有限会社は、株式会社と比べれば簡便である

まず、資本金が 25,000 ユーロと株式会社の 50,000 ユーロの半額でスタートが可能です。しかも当初は 12,500 ユーロからスタートできたり、1 ユーロ起業も可能な UG という制度もあります。

また、株式会社のような監査役会を設ける必要がなく、取締役の人数や任期も自由です(一人でよい)。

したがいまして、株式会社の簡易版と言われることもあります。

4)ドイツの有限会社は信用力が高い

株式の流通を考えない限りはわざわざ株式会社にはせず有限会社を選ぶのが、経済合理性を重んじるドイツの一般的な考え方です。意外な巨大企業が有限会社のままであったりする例もありますので、株式会社の簡易版とは言え、有限会社全体としても信用力は十分であるというのが社会一般の認識です。

またドイツの有限会社は、商業登記裁判所を通して商業登記簿に載せられる、公的存在であることも指摘しておきます。

5)有限会社では税務申告が必須

他の小さめの会社形態と比べますと、税務申告の負担が重くなります。少なくとも年度決算は、原則として税理士に出す必要がありますが、そうしますと月次の付加価値税申告の段階で既に税理士にお願いしておいた方が一般的に合理的です。

6)ドイツの有限会社は解散・精算に時間がかかる

もし撤退や解散を考えることがある場合ですが、その場合には一般的に2年ぐらいの時間がかかります。精算を申告して精算中法人に変わり、それから債権債務の整理を行うことになります。

その点、1)で挙げた他の会社形態の方が、撤退は簡単です。

なお精算人を設ける必要がありますが、現地法人の場合はドイツ在住の誰かに委任することを考えた方が現実的です。

7)有限会社持分には株式のような流通性がない

持分の変更や譲渡には、いちいち公証役場での定款書き換えと儀式が必要です。もちろん、その後に商業登記裁判所経由で商業登記簿が書き換えられます。

そうしますと公証人費用と時間が毎回かかりますが、経験上は頻繁に売り買いをするのでなければ、それほど負担にはならないように感じられます。

こんな大企業も有限会社

有限会社で十分なドイツ社会

ドイツでは有限会社がメジャーな会社形態です。株式を流通させたいのでない限りは、社会的信用の面では有限会社で十分、というのが一般認識です。

それでも株式会社化している企業は

誰もが知る大企業は、さすがに株式会社化して上場しているところが多くなります。たとえば、自動車の大手三社 (Volkswagen, Daimler, BMW)も Porsche も株式会社ですし、重電・家電の Siemens や保険の Allianz も株式会社です。Adidas も株式会社(Puma は SE という欧州株式会社形態)。

なんとあの会社が有限会社

それでもドイツ売上トップ10社の中で、なんとあの Bosch が有限会社として有名です。また、最大手ディスカウントスーパーの Aldi と Lidl グループは、財団、合名会社などと合わせて有限会社形態で運営されています。(いずれもファミリー企業です。)

トップ10社以外でも、ドラッグストアチェーン1位の dm と2位の Rossmann が両社とも有限会社になっています。また、ドイツ在住の方々にすら一般には馴染みがないかもしれませんが、自動車部品の MAHLE 、工具の Würth も巨大有限会社です。

まとめ

決して株式会社をお勧めしないわけではありませんが、日本では想像がつかないぐらい有限会社が主流になっていますので、ご紹介しました。イメージとしては、日本ではサントリーやYKKが上場していないのと同じように、上に挙げました Bosch などの大企業が株式会社化をしていない、と言えると思います。

有限会社の多いドイツ

有限会社が大多数を占めるドイツの経済社会

ドイツは有限会社 (GmbH) がもっとも多く使われる会社形態です。

持分(株式会社における株式)を流通させたいのでない限りは、社会的信用の面では有限会社で十分、というのが一般認識です。

(ご参考「ドイツ有限会社の特徴7点」「ドイツ現法4つの会社形態

ドイツ有限会社の魅力(株式会社より少額資本で組織も簡素)

有限責任でかつ原則 25,000 ユーロ以上の出資金を積むことで設立できますが、これは株式会社 (AG) の 場合の 50,000 ユーロよりも少なく、かつ監査役会が不要であったりと比較的簡便です。たしかに株式会社のような持分(株式)の流動性はないものの、株式会社に準ずる信用を得られる、利用度の高い会社形態であるとされています。

実際の数の比較(ドイツではこれだけ多い有限会社)

さて、その数ですが2019年の政府統計によると、ドイツの有限会社は約55万社。法人の9割をも占めます(ただし、合資会社 KG や民法上の組合 GbR など、法人格を有さない人的会社という形態も一定数あります)。それに対して株式会社は 7600 社しか存在せず、有限会社の数は実に70倍以上多い比率になります

一方、株式会社中心と言われる日本では、法務省の古い統計によると、有限会社が136万社に対して、株式会社が108万社と、1.3 倍にも満たない差でほぼ同数と言ってよいでしょう。日独でこれほどの違いがあるのです。

法人銀行口座開設の問題点

いつ法人銀行口座が必要か

ドイツで大多数を占める会社形態である有限会社の設立には、設立時の出資金の振り込み口座が必須です(有限会社の場合は 25,000 € 以上の基本出資金を振り込んでオープニング・バランスとして記録する)。しかし、昨今では法人用口座を開設するのが年々難しくなってきています。

(ご参考「ドイツ会社設立の手続き」

なぜ法人口座の開設は難しいのか

まずマクロ的な問題として、①マネーロンダリング対策と、②マイナス金利のマクロ経済環境があります。そのため、銀行側としては大きなビジネスになる期待のない口座は極力抱えたくない状況になります。

それに加えて、日系企業の場合は代表者がドイツ語でコミュニケーションできないというのが、実務上かつコンプライアンス上の障害となって、口座開設を拒否されることが頻繁に起こっています。

どの銀行で口座開設を目指すか

口座開設をお願いする銀行の種別としては、以下のようになります。日本企業でメガバンクが日本親会社のメインバンクになっていると有利なように見えますが、昨今では邦銀さんも泣く泣く口座開設をお断りすることが多いようです。

  • 邦銀のドイツ支店
  • 一般の銀行(ドイチェバンクコメルツバンクなど)
  • 各地の有力地銀(ドイツでは地銀の評価は相対的に高くなっています)
  • ネットバンク(N26ペンタなど。簡単なようですが、各社ごとにNG要件があるので注意)

法人口座開設・解決策

解決策は以下の通りになります。仮にも資金を預金する側になるので銀行にとっては顧客のはずですが、このマクロ環境では仕方がありません。クライアントの皆様には、それ相応の準備をしていただいています。

  1. 複数の銀行に同時にアプローチする(実際にオープニング・バランス用以外にも、口座は複数必要になるはずです)
  2. 現地代表者だけでなく、会社オーナー情報を全て揃える(日本にいる場合はアポスティーユつきで揃えます)
  3. プレゼンテーション資料も用意する(内容は銀行審査向けであって、いわゆるビジネスプランとは違います)

これだけ準備しても一行も開けなかった場合のために、奥の手を4オプション揃えておりますので、安心してお任せいただければと思います。

具体的な口座開設のプロセスについては、「法人銀行口座開設の手続き」をご参照ください。)

飲食店のアルコール許可

ドイツ・飲食店のアルコール提供許可申請で注意すべきこと

飲食店を開業するにあたり、アルコールを提供するには特別の事業登録が必要です。
(ご参考「ドイツ飲食店開業の手続き」

普通にドイツに暮らしていては一度も接点をもたないような特別な書類をいくつも要求されて、吐き気を催す方が少なくありません。

しかし、役所での事務処理に一般的に 4-6 週間かかりますので、オープニングに先立って余裕をもって申請を提出しておく必要があります。

ドイツ・飲食店のアルコール提供許可申請に必要な書類

必要書類は、その年と州によってやや異なってきますので、その都度確認が必要です。

しかし、基本的には以下のようになります。

  1. Führungszeugnis 犯罪証明書(個人の場合のみ)
  2. Gewerbezentralregister-Auskunft 登録内容情報
  3. Auskunft aus dem zentralen Vollstreckungsgericht 執行裁判所からの情報
  4. Bescheinigung in Steuersachen 税務証明書
  5. Personalausweis 身分証明書・パスポート(個人の場合のみ)
  6. Handelsregisterauszug 商業登記簿(法人の場合のみ)

(注)法人の場合は、法人自身と代表者個人について、両方の書類提出が必要です。

最後に

飲食店の開業準備では、店舗改装や従業員採用など多忙を極める中、アルコール提供許可の申請が後回しになりがちです。気づいたら開店前1ヶ月を過ぎていて、アルコールなしの開店かスケジュール変更かを余儀なくされることもあります。早め早めの申請をお勧めしています。