ドイツには社長がいない

ドイツに社長がいない(有限会社でも株式会社でも)

ドイツは一般的な会社形態である有限会社であれば「取締役 Geschäftsführer」が、株式会社であれば「取締役会 Vorstand」のメンバーが、会社を代表し、かつ経営を行います。

日本と違って、特に定めのない限りは共同で会社を代表します。

会社トップは誰か(日本の場合・ドイツ有限会社の場合・ドイツ株式会社の場合)

日本であれば必ず代表取締役が一人はいるわけで、社長という職が会社法で定まっていないにもかかわらず、代表取締役が社長として内外ともに機能します。

ドイツでも、内部的に No.1 が誰かを決めることはありますが、共同代表ですので法的には等しく単なる取締役(平取?)です。その代わり、取締役 Geschäftsführer なり取締役会 Vorstand のメンバーとなると(平取と言えど?)、共同でそれ相応の社会的地位と責任が生まれてきます。

日系企業の現地法人の場合

日系企業の現地法人(通常は有限会社)でも駐在員のトップの方が取締役 Geschäftsführer になることが多いですが、単独でなる場合もあれば、現地採用社員のトップと共同でなる場合もあります。いずれにせよ、有限会社の取締役とは、商業登記裁判所の登記に載る重要な役職です。一般従業員とは異なる立場ですので、その地位と責任への理解が必要です。

会社設立費用への誤解

【誤解】会社設立費用と資本金の混同

会社設立の要件として設立費用が心配されることがあります。特に有限会社について、「25,000 ユーロもの設立費用がかかる」という誤解をよく聞きます。その点をご説明します。

たしかに有限会社の場合、25,000 ユーロは最低限必要な基本出資金(資本金)です。株式会社の場合は 50,000 ユーロになります。

有限会社の例に戻すと、半額の 12,500 ユーロでも一旦は設立が可能なほか、物納出資も(あまり使われませんが)可能です。また、UG という1ユーロ設立が可能な形態もあります。

しかし重要なことは、これらはあくまで資本金であること。設立後はその事業のために使える会社のお金です。費用とみなすのはミスリーディングになります。

現実的にみて、給与支払いや家賃支払い、設備や備品への支出で、25,000 ユーロぐらいは使うものかと思われます。これは自社のために使えるお金であって、設立費用ではありません。

(これとは別に、支社駐在員事務所、個人事業のように、資本金なしで設立できる事業形態もあります。)

では、実際の会社設立費用はいくらか

実際にかかる設立費用には、公証役場や商業登記の費用、必要に応じて法定翻訳、弁護士・税理士・私たちのような外部サービスなどが加わりますが、当然のことながら資本金よりはるかに少なく済みます。具体的には、オーナー構成や会社形態によって大きく違ってきますので、お問い合わせください。

ドイツ駐在員事務所まとめ

日系企業の現地法人として選ばれる4つの会社形態の一つ、駐在員事務所 Repräsentanz について、ご説明します。

販売や営業はできないものの、本格進出前の市場調査やリレーションシップづくりのために利用されることはよくあります。

1)ドイツ駐在員事務所は法的根拠のない存在

独立支社非独立支社のように法人格はなく社会的に認知が低いというだけではなく、法律の上で定めのない存在でもあります。

そのため、契約当事者能力がないことが問題になることあります。よくある例としてオフィスの賃貸がし難いことが挙げられます。詳細と対策は「駐在員事務所のオフィス問題」にまとめております。

また、名称は日本の本社のものを使わなくてはなりませんが、駐在員事務所であることを示す言葉を付記することは可能です。詳しくは「駐在員事務所の名づけ方」をご参照ください。

2)ドイツ駐在員事務所は営業目的には利用できない

駐在員事務所は、あくまで市場リサーチや技術サポートなど、営業活動でないものに限定されます。利益が上がったときには課税対象になりますので、「法的に規定のない存在」であることと矛盾が生じます。根拠として、日独租税協定が二重課税回避を認めない「恒久的施設」Betriebsstätte に該当してしまい(同第5条)、別の会社形態が必要になります。

このように大きな制限がありますが、本格進出の前の最初の一歩としての利用価値はあろうかと思われます。

具体的に駐在員事務所で「どこまでできるか」については「駐在員事務所にできる業務」をご覧ください。

3)ドイツ駐在員事務所はスタートが簡単(事業登録はおすすめするが必要ではない)

商業登記はもちろん、事業登録の手間すらなく、その分設立事務は簡単です。最低限必要なのは、税務と労務上の登録だけです。(労務登録については「駐在員事務所の現地採用」をご参照ください。)

しかし、事業登録を任意で行うことはできます。事業登録がないと、信用力の問題からオフィス賃貸ができないことも多く、業務上の支障が多いのが現実です。また、事業登録があれば銀行口座が開けたり、カーリースができる業者も出てきます。したがって、事業登録をすることをお勧めしております。

ただし実務上、地方の役所では駐在員事務所の対応経験がなく、事業登録をする場合は難航するケースがありますので注意が必要です。(詳しくはご相談ください。

4)駐在員事務所であっても VAT 還付は可能

営業活動はせず売上・利益に基づいた課税はありませんが、費用のVATについて還付を受けることができます。

また、従業員の所得税や社会保険は支払う必要があります。

駐在員事務所の税務については「納税義務がない」と言われているのに、上述のように「税務登録は必要」であることから、よく混乱があります。それについては、「駐在員事務所の税務の謎」でご説明しています。

所得税・社会保険はじめ、駐在員事務所の採用については「駐在員事務所の現地採用」)をご参照ください。

「非独立支社」とは

日系企業の現地法人として選ばれる4つの会社形態の一つ、非独立支社 Unselbstständige Niederlassung (Betriebsstätte) について、ご説明します。

独立支社同様、日本ではコンサルティング会社から勧められることがあるようですが、これも実は現地ではあまり用いられていない会社形態です。あるクライアントのときには、役所の若い窓口担当者が非独立支社という制度の存在すら知らず、あとからベテランに担当してもらって、なんとか事業登録まで漕ぎ着けた経験もあります。

1)ドイツの非独立支社は、あくまで日本の本社の支店

非独立支社は、本社の名の下に事業を行います。たしかに、現地責任者に対して委任状を発行して営業活動など一部を現地に委ねることはできますが、法的責任はあくまで本社に帰属します(日系企業の場合は日本の本社)。

ただし、社名は本社のものをそのまま使うだけでなく(例: XYZ Co., Ltd.)、「デュッセルドルフ 市の支社です」という追記をつけることは可能です(例: XZY Co., Ltd. Zweigstelle Düsseldorf)。

また、ドイツの法人ではありませんので、代表者や従業員のビザ取得で支障が出ることもあります。

2)非独立支社は登記が不要である

独立支社と違って、非独立支社の場合は商業登記が不要になります。社会的信用の点で不足する一方、登記のための書類の準備や公証役場での署名を省くことができますので、設立の作業は簡略化されます。

また、登記がないだけに、撤退のときもスムーズに行うことができます。これはメリットと言えるでしょう。

登記がなくとも、市役所での事業登録は必要です。逆に事業登録があるおかげで、カーリースが業者によっては可能だったりといった利点も享受できます。

3)非独立支社は実務上マイナーである

前述のように、事業登録の際に役所の窓口が非独立支社という制度そのものを知らなくて手間取うこともあります。また銀行でも馴染みがありませんので、口座開設に支障があることもあります。

法的な建て付けの上でも、社会的認知の上でも、あくまで外国企業である本国の本社の名代として事業を行うことになります。

「独立支社」とは

日系企業の現地法人として選ばれる4つの会社形態の一つ、独立支社 Zweigniederlassung について、解説します。

日本のコンサルティング会社がこれからドイツに進出しようという顧客に薦めるケースがありますが、実は現地ではあまり用いられていない会社形態です。設立が煩雑な割にメリットが少ないので、よくよくニーズと合っているかどうかを検討する必要があります。

1)ドイツの独立支社は、あくまで日本の本社の支店的役割

独立支社は実質的には支社よりも支店という感覚です(Niederlassung / 支店 という言葉が日常的に使われる一方、独立支社という制度は実務的にあまり知られていない)。

事業を独立して行うことがあるとされていますが、法的責任はあくまで本社に帰属します(日系企業の場合は日本の本社)。

社名も本社のものを使います(例: XYZ Co., Ltd.)。ただし「デュッセルドルフ 市登録の支社です」といった追記をつけることは可能です(例: XZY Co., Ltd. Zweigniederlassung Düsseldorf)。

また、ドイツの法人ではありませんので、代表者や従業員のビザ取得に困難をきたすこともあります。

2)しかし独立支社の場合は、登記の対象である

非独立支社との大きな違いはここで、独立支社の場合は商業登記の対象となります。その点は信用力にプラスになります。

一方で、登記の対象となるということは、親会社の登記簿謄本の法定翻訳・アポスティーユ取得や、公証役場での署名などが必要で、有限会社設立のプロセスと同じく煩雑です。

3)実務上マイナーである

役所の認知が十分とは言えず、事業登録などで思いのほか時間や手間がかかる可能性があります。また銀行でも馴染みがありませんので、インフラが整っていないという意味で、設立するが煩雑な会社形態だと言えます。

元よりの法的な建て付けからしても、社会的認知も低いことからも、あくまで外国企業である本国の本社の名代として事業を行うことになります。