駐在員事務所の現地採用

ドイツ駐在員事務所でも現地採用は可能

ドイツの駐在員事務所は、営業目的に使うことができず、あくまで現地の出先機関として市場調査や技術サポートなどに使われます。したがって、文字通り駐在員の方がお一人で勤務されるパターンが多くなっています。

(ご参考「ドイツ駐在員事務所まとめ」「駐在員事務所にできる業務」

しかし、今後の事業の発展やサポート地域を拡大するためにローカルの社員を雇ったり、ドイツ語のできる総務や秘書の人材を現地採用したりすることはできないのでしょうか?

答えは「駐在員事務所も現地採用は可能」です。

しかし、ドイツ企業社会のデフォルトである有限会社と違って、例外的な存在である駐在員事務所(これは独立支社非独立支社も同じです)。人材採用の場合には何に注意すればよいでしょうか?

ドイツ語でも世にほとんどインストラクションが出ていませんので、この場でわかりやすく解説しておきます。

ドイツ駐在員事務所が現地採用する場合の注意 ① 所得税の支払い

駐在員事務所はドイツでの法的根拠のない存在であるとは言え(ご参考「ドイツ駐在員事務所まとめ」)、納税義務はあります。

税務署での登録と税金番号 Steuernummer の取得は必須です。それに伴って、従業員の給与はドイツで申告し、所得税 Lohnsteuer を源泉徴収の形で払わなくてはなりません。

なお、営業はしないので、法人税・事業税はありません。

ドイツ駐在員事務所が現地採用する場合の注意 ② 労働局登録

雇用をする際には労働局への事業所登録が必要です。その際に事業所番号 Betriebsnummmer を受け取りまして、この番号がその後の労働局とのやりとり(就労可能なビザ申請も含む)と社会保険の支払いで終始使われます。

この番号は、駐在員事務所であっても取得可能です。

なお、社会保険は主として健康保険と年金保険で成り立ちます(残りは介護保険と失業保険)。駐在員であれば、プライベート健康保険と「日独年金協定」を理由とした年金保険支払い免除で、別の支払い方法もあります。

ドイツ駐在員事務所が現地採用する場合の注意 ③ 労災保険

労災 Genossenschaft はホワイトカラーであっても加入しなくてはなりません。業種ごとに見合った労災機関が存在します。そこに登録して、事業所別の従業員数と就業内容を申告して、年間の保険料が決められます。

ドイツ駐在員事務所が現地採用する場合の注意 ④ 労働契約

ドイツでのビジネスに慣れている方ならばお分かりかと思いますが、労働者が守られている国ですので、契約には細心の注意が必要です。契約とその後の管理が甘いと、一年中病欠をとられてしまったり、辞めてもらうのに数年分の給与を支払うはめに陥ります。また、労働組合を作られてしまうと、解雇がより難しくなります。

私たちのクライアントには経験上ないしはドイツビジネスの常識の範囲で申し上げられるアドバイスは適宜しています。より詳しいことについては、日本人弁護士を紹介しています。

ここでは試用期間 Probezeit の設定(最大6ヶ月)を欠かさず含めるべきことだけ示唆しておきます。

ドイツ駐在員事務所が現地採用する場合の注意 ⑤ ビザ取得

これは現地採用でもドイツ国籍や永住ビザのない人を雇う場合、または駐在員自身のビザについての項目です。

駐在員事務所であっても従業員のビザ取得は可能です。しかし経験上、特に立ち上げ当初のビザ取得が困難です(独立支社非独立支社も同じです)。有限会社ならば先に法人が存在しているのでよいのですが、駐在員事務所の場合は、最初の一人が日本の本社からの派遣の下にビザを取得するからです。

田舎の外人局ですと、駐在員事務所や支社という制度に知識がないので、理解を得られなかったこともあります。そういった場合は既成事実の積み上げで説得していくことになります。ドイツの役所は意外に個々の裁量権が与えられているので、よくも悪くも交渉の余地があります。

詳しくは、ご相談ください。

駐在員事務所オフィス問題

ドイツ駐在員事務所の問題(法的根拠のない存在である)

ドイツの駐在員事務所は法律上の定めのない存在です。それゆえセットアップは簡単なのですが、契約行為に支障が出てしまいます。

それがよく顕著に出るのがオフィス物件の賃貸契約を結ぶときです。駐在員事務所の法的責任は日本の本社に帰属しますが、貸主側は責任追求のしにくい外国籍の賃借人(=日本の本社)との契約を避ける傾向にあります(EU内であれば有利です)。そこが問題です。

(ご参考「ドイツ駐在員事務所まとめ」

オフィス物件の貸主側が求める書類要件(一般)

オフィスはじめ商業物件の賃貸期間は5年と10年が標準です。それだけの長期に及ぶこともあってか、契約に当たっては信用性審査のデューディリジェンスがしっかりと行われるのが通常です。

信用審査のためによく求められる書類要件は以下の通りです

  • 登記簿謄本 Handelsregisterauszug
  • Crefo (Creditreform) レポート・スコア
  • 財務諸表(ドイツの法人が対象ですから年度決算 Jahresbericht と直近の月次財務諸表 BWA で、特に担当税理士の署名とスタンプの入ったもの)

(注: いい物件ほど取り合いが熾烈ですので、その他にもアピール資料を用意するべき場合もあります。)

さてこのうち、駐在員事務所では何が揃うでしょうか。

  • 有限会社独立支社と違って登記をしませんので、登記簿謄本はありません。
  • Crefo レポートは一般には作られていないはずです。会社名と住所だけは登録がある可能性がありますが、その場合は少なくとも傷がないことの証明と受け取られる効果があるかもしれません。
  • 財務諸表は普通はドイツのものはないはずです。

そこで、駐在員事務所は、日本の本社のものとドイツ現地であるものとを合わせて、フレキシブルに貸主側のデューディリジェンスを通過できるものを揃えなくてはなりません。

オフィス物件の貸主側が求める書類要件をどう揃えるか(駐在員事務所の場合)

貸主側の要望や着眼点によっても変わってきますが、以下のようなものを最低限揃えることになります。

  • 日本の親会社の登記簿謄本(厳密性を求められる場合にはドイツ語法定翻訳とアポスティーユが要ります)
  • ドイツの駐在員事務所の事業登録証書
  • 日本の親会社の財務諸表(英語の IR 資料が一般的です)

その他適宜、ドイツの駐在員事務所の支払い能力を日本の親会社がサポートする約束など追加書類を差し入れる工夫が要ります。あとは交渉次第です。

ドイツ駐在員事務所のオフィス問題・この苦労を避ける打開策

上記のような書類の工夫で、賃貸契約まで漕ぎ着けることは可能です。しかし、スピーディーで簡単なスタートが切れるがゆえに選んだ駐在員事務所で、法人設立並みに手間がかかってしまっては本末転倒と思われる方もあるかもしれません。

そこで、実際にとられている打開策をご紹介しておきます。

  • 個人名義で賃貸する(ただしこの場合は自営業可能なビザが必要な可能性があります)
  • デューディリジェンスの甘い物件だけを狙う
  • 取引先オフィスに間借りする
  • 有限会社に変更する

駐在員事務所にできる業務

ドイツの駐在員事務所にできる業務

ドイツの駐在員事務所は、税務登録だけでスタートできる身軽さが魅力です。(ただし、事業登録はお勧めしています。)

「ドイツ駐在員事務所まとめ」では、以下の4つの駐在員事務所 Repräsentanz の特徴を挙げました。

1)ドイツ駐在員事務所は法的根拠のない存在
2)ドイツ駐在員事務所は営業目的には利用できない
3)駐在員事務所はスタートが簡単(事業登録はおすすめするが必要ではない)
4)駐在員事務所であっても VAT 還付は可能

このうち2の「営業目的には利用できない」について、「では逆に何ができるのか」がご質問が多い点です。そこで以下、ご説明していきたいと思います。

ドイツ駐在員事務所にできる業務(考え方)

駐在員事務所は、法的に規定のない存在です。

  • そのため契約の主体は日本の本社になります。
  • 利益が上がったときには課税対象になりますので、「法的に規定のない存在」は認められなくなります。言い換えれば、日独租税協定が二重課税回避を認めない「恒久的施設」Betriebsstätte に該当してしまいまして(同第5条)、駐在員事務所の範疇を超えてしまいます。わかりやすく具体的に言うと、担当の税理士さんから「これは現地法人化しなくてはまずい」と会社形態の変更を要求されるレベルです。この場合は、現地法人(原則として有限会社)ないしは少なくとも非独立支社にする必要が出てきます。
  • したがって、一般に駐在員事務所に可能なのは、「市場調査と技術サポート」と言われます。

ドイツ駐在員事務所にできる業務(具体例)

では、具体的にどのような使い方が想定できるのか。例を挙げてみたいと思います。

  • 自社の欧州内現地法人に対して、技術サポートをする駐在員事務所
  • 自社の顧客の欧州内現地法人に対して、技術サポートをする駐在員事務所
  • 自社が今後欧州現地法人を設立するかどうかの、事前判断のための市場調査をする出先機関としての駐在員事務所
  • 一般的に欧州市場の調査をするための駐在員事務所
  • 日本・アジアとアメリカの間の時差をつなぐ連絡役になる駐在員事務所
  • 物流・在庫管理拠点としての駐在員事務所

これらのいずれか一つ又は複数を兼ねた駐在員事務所が一般的です。

ドイツ駐在員事務所にできる業務(発展例)

最後に「おまけ」として、駐在員事務所でどこまでできるかを挑戦した例をお示ししておきます。

上記の日独租税協定では、他社に自社名義で営業させると課税対象になってしまいます(同第5条5項)。しかし、「独立の地位を有する代理人を通じて」事業を行っているだけでは「恒久的施設」とはみなされないとあります(同第5条6項)。すなわち、独立した代理人を使うことは可能だということです。

そこで「代理店に営業を任せた上で、そのサポートを駐在員事務所が行う」という構図が作り得ます。

スタートのしやすさが駐在員事務所の魅力です。そこで、本格進出に先駆けて代理店経由ででも営業活動ができれば、その後の足がかりになることもあろうかと思われます。

具体的には、代理店と本社との契約、税理士さんとの合意確認が必要ですが、ご関心がありましたらご相談ください。

ミュンヘン進出案内

ミュンヘン / München について、現地法人設立や起業の観点からご説明します。

サッカーとビールで有名ですが、BMW やジーメンス / Siemens といった製造業、アリアンツ Allianz などの保険会社と、世界的大企業の本拠地でもあります。

目次

1)ミュンヘンの産業
2)ミュンヘンの人口
3)ミュンヘンの空港
4)ミュンヘンの事業税
5)日系企業のオフィス立地

1)ミュンヘンの産業

ミュンヘンの主要産業は、上述のように自動車や重電を中心として製造業、それから保険業になっています。ドイツを代表する世界的企業が揃っています。

ミュンヘンの雇用人数別・大企業ランキング

  1. ミュンヘン市
  2. BMW AG(自動車)
  3. TUM(ミュンヘン工科大学)
  4. ミュンヘン空港
  5. MAN SE (トラック)
  6. Siemens AG(重電・家電)
  7. Allianz SE(保険)
  8. Linde AG(産業ガス)
  9. Münchner Rückversicherung(ミュンヘン再保険)
  10. Sparkasse München(地銀)

したがって日系企業も電機、自動車部品関連のメーカーがほとんどです。通信セクターも存在感があります。

2)ミュンヘンの人口

ミュンヘンはドイツ第3の人口を誇り、直近の統計では150万人を超えています。日本の主要都市と比べるとかなり小さいですが、他のドイツの主要都市と同じく周辺人口が豊富で、州内の「ミュンヘン計画区」では290万人、より広域の「ミュンヘン都市圏」ですと610万人にも上ります。

また、ミュンヘンはドイツ主要都市の中で人口密度が一番高く、1キロ平米あたりの人口は 4,800 人になります(東京は 6,000 人強)。

外国人の住民比率は 27% と主要都市の中ではフランクフルトに次いで高くなっていますが、「移民バックグラウンド市民」(本人ないしは両親の少なくとも一方が外国籍を持って生まれた市民)の割合は 34% と逆に主要都市の中では最も低くなっています。つまり「駐在も含めて仕事の上での一代限りの移住は多いが、家族代々の移民や混血は少なめ」ということになりますが、これは実感と合っています。たしかに、ミュンヘンは地元意識が強いので、我々外国人には深く入り込みにくいと一般に言われています。

購買力統計 / Kaufkraftindex では、ミュンヘンと周辺都市がドイツでトップに並んでおり、同時に物価も高めになっています。不動産価格も高く、家賃価格はドイツで一番となっています。

一方、日本人の人口は、外務省の「海外在留邦人数調査統計」によると 5,500 人になっていまして、デュッセルドルフに次いで日本人の多い都市になります。

日本人学校は全日制と補習校が両方あり、日本人幼稚園もあります(それぞれ所在地は別)。インターナショナルスクールは主に3校(Munich International School, Bavarian International School, St. George’s)があります。

ミュンヘン日本人会には個人会員と法人会員の両方が所属していて、イベントや会報の発行が活発に行われています。

3)ミュンヘンの空港

ミュンヘンの空港は、市の北東30キロすぎのところに位置し、イスマニング / Ismaning やガーヒング / Garching といった近隣都市の更に北東になりますが、ミュンヘン市に入っています。

上の地図では 30分前後で着くように出ていますが、渋滞が多いので実際の感覚は車で 45分ぐらいです。電車(Sバーンの S1, S8)でもミュンヘン中央駅から 40分前後かかります。

ミュンヘン空港はフランクフルトの空港に次ぐドイツ第二の空港で、規模も大きく本数も豊富です。アメリカやアジアへのフライトもあり、日本との間の直行便もあります。(コロナウイルスの影響もありますので、逐次ご確認ください。ご参考: ウィキペディア「日本の空港から直行便のある都市一覧」

4)ミュンヘンの事業税

事業税 / Gewerbesteuer とは、法人の利益への課税のうち市町村から課される部分で、各自治体ごとに異なる料率をかけます。一方、国と州から課されるのは法人税 / Körperschaftsteuer といって一律 15%ですが、その課税額に対し 5.5% の連帯付加税 / Solidaritätszuschlag(東ドイツなどの復興納税)が加わりますので、実質 15.825% となります。

事業税の計算の仕方は、3.5% のベースレート / Steuermessbetrag があって、それに市町村ごとの掛け目 / Hebesatz を掛けます。一般には 400% ぐらいの掛け目が一般なので(レンジは200-900%)、3.5% x 400% = 14% の事業税ということになります。

これに先の法人税 約15.8% と合わせますと、約29.8%ということになります。

さて、ミュンヘンの掛け目ですが、490%とドイツの主要都市の中では最も高くなっています。上と同様に計算しますと、事業税が 17.15% で、法人税 約15.8% と合わせて約33.0% になります。

しかし一方で、周辺の他都市は 350% 前後の低めの都市が多く、28-29% ぐらいの着地が望めるところが多くあります。後述のようにミュンヘン市街地とミュンヘン空港の間には日系企業が拠点を置くエヒング Eching やイスマニング Ismaning など郊外都市がいくつかありますが、330% と更に低くなっています。

ただし、事業税の対象となる自治体は、単に本拠地というだけでは決まりません。売上の上がった場所、従業員数の拠点ごとの分布など、いくつかのファクターで総合的に求められます。具体的な計算や税務署への報告には日本人税理士を紹介しております。

5)日系企業現地法人のオフィス立地

ミュンヘンでは、日系企業の現地法人の多くは中心部から北側のシュヴァービング / Schwabing 周辺か、東側のボーゲンハウゼン / Bogenhausen からリーム / Riem 周辺にオフィスを構えています。市の中心部は、オフィス賃料が高く渋滞も多いので、来客がよほど多い業態でない限りは割に合わないところがあると思われます。

また、北東に位置するミュンヘン空港手前の郊外都市であるエヒング / Eching やイスマニング / Ismaning を選ぶ企業もあられます。これらの都市はミュンヘンよりは事業税が安く(上記「4)ミュンヘンの事業税」ご参照のこと)、オフィス賃料も割安になります。また周辺のガーヒング / Garching などは優良な居住エリアですので、郊外型の職住近接生活も実現可能です。

ドイツの地方分権・連邦制

地方分権国家ドイツ・16の州による連邦制

ドイツは連邦国家で、正式な国名はドイツ連邦共和国 (Bundesrepublik Deutschland) になっています。日本で提唱されることのある「道州制」のモデルにも使われています。

中央の連邦政府に対して、各州もある程度独自の権限をもっていて、州ごとに政策の違いが見られます。中央の連邦政府が受け持つのが外交や軍事で、地方の州政府が受け持つのが教育や警察というのが、よく言われる役割分担です。

コロナウイルスの感染症対策の初期では、メルケル首相と各州知事による会合で国の基本対策を決定していました。これが国策と州レベルの政策とがオーバーラップする領域だったのでしょう。

州は全部で16ありますが、ベルリン・ハンブルグ・ブレーメンの3都市は州に数えられます。それぞれ個性があり国全体としての多様性に寄与しているとされています。(ご参考・ドイツ大使館サイト「16の連邦州」

地方分権国家ドイツ・具体的に州ごとに違うもの

では、具体的に州が独自で決定し、州により相違があるものには、どのようなものがあるのでしょうか?

  • コロナウイルス対策: 感染状況が州によって違うので当然かもしれませんが、ワクチン未摂取者の行動制限、集会やスポーツ可能人数、飲食店の開店時間・アルコール提供の可否など、州ごとに決定されています。
  • 祝日と長期休暇: 祝日は基本的にカトリックの地域で多め、プロテスタントの地域で少なめです。学校の長期休暇(春、夏、秋、冬)はバカンスのピークをずらすのに機能しています(参考サイトはこちら。よく休む様が見てとれます)。
  • 各種業法: 業界によって州ごとに規則が違うことがありますが、たとえば不動産売買手数料は週によって料率や支払い手が変わってくるので、注意が必要です。

地方分権国家ドイツ・主要都市の個性も見逃せない

以上は連邦制の下では州が大きな権限を持っているという解説でした。

しかし、ドイツに進出・起業する上で見逃せないのが、都市ごとの個性の違いです。首都はベルリンなのに、ミュンヘンやフランクフルトなど、首都をしのぐ機能と特色を持つ都市がいくつもあります。

これは別ページで紹介したいと思います。