法人銀行口座開設の手続き

ドイツにおける法人銀行口座の開設は、マイナス金利とマネーロンダリング対策を背景に、年々難しくなっています。その理由と対策については、ご参考ページ「法人銀行口座開設の問題点」をご覧ください。

一方、法人口座開設については、スケジュールや段取りも重要です。

ドイツ法人銀行口座・開設のタイミング(いつ口座が必要か)

「いつ口座が必要か」の結論を先に示してしまいますと、銀行口座開設は「現地法人設立・手続き工程表」中の ③ と ⑤ の間になります(以下、抜粋)。

「工程表」より抜粋

定款・設立証書と登記申請書に公証人オフィスにて署名(この時点で「設立中法人」GmbH i.G. に)
法人用銀行口座開設と出資金振り込み
商業登記裁判所で登記完了(=会社設立完了)

これを別の言葉でご説明しますと、公証人のところで署名をして「設立中法人」GmbH i.G. になった後に、XXX GmbH i.G. として会社の名前で銀行口座を作ります。

そして、できた口座に基本出資金を振り込み、オープニングバランスを作成します。

それを裁判所に提出すると、そこから設立登記の作業がようやくと先に進みます。

つまり、口座を開設しないと登記を完了することはできません

ドイツ法人口座開設・実務的スケジュール

昨今の法人口座開設の難しさと長期化のリスクを考えると、公証人オフィスで署名をしたら、すぐにも銀行に行ける段取りをしておくべきです。

したがって、公証人オフィスへ署名に行く前に、以下のように準備をしておくべきです。

  • 申し込み銀行を決めておく
  • 事前にオンライン申し込みや面会アポイントメントがとれる銀行は、先に進められるところまで進めておく
  • 銀行に申し込むための書類は全て揃えておく

詳しくは「法人銀行口座開設の問題点」をご参照ください。

飲食店は個人事業でよいか

資本主義が株式会社や有限会社によって発達した歴史から、法人形態をとった方が事業が伸びることは誰もが直感的に分かることかと思います。実際に、なるべく法人化することをお勧めしています。

しかし、予算の都合もあって個人事業で開業したいこともありますし、実際にドイツの飲食店で個人事業形態で営業しておられるお店はたくさんあります。

そこで、まずは最初に飲食店を個人事業で始めるための条件をお示しした上で、個人事業のメリットとデメリットを整理してみたいと思います。

ドイツで飲食店を個人事業で開業する条件

  • 自営業可能なビザがあること
  • アルコール提供申請も含めて事業登録ができること
  • 物件賃貸はもちろん、必要な場合は融資を受けることができる信用力(SCHUFA など)

ドイツで飲食店を個人事業でおこなうメリット

1. 設立費用と時間の節約

法人を設立する場合には、資本金を積まなくてはなりません。有限会社の基本出資金は原則として 25,000 ユーロ以上です。これは実は自己資本であって費用ではありませんが、オープニングバランスとして一度は積まなくてはならない金額です。また、そのほかにも本当に設立にかかる費用もあります。

また、法人設立は登記事項であることから、公証人のもとでの定款等の署名、商業登記裁判所での審査・登記、法人用銀行口座開設といったプロセスが長く、通常は 3-4ヶ月かかります。(ご参考「ドイツ会社設立の手続き」

個人事業ですと、事業用銀行口座は開くべきものの、その他の手間は事業登録(アルコール申請も含む)と税務・労務登録のみで済むことになります。(「手続き工程表」の ⑥ 以下のみ)

2. 会計費用の節約

法人にしますと、年度決算の義務があります。年度決算は税理士によって締められなくてはならないので、月次決算から税理士に依頼する必然性があります。個人事業ですと、ある程度のドイツ語力と税務知識さえあれば自分で完結することもできますので、もし人任せにせずに自分でやれるのならば、税理士費用が大きく違ってきます。

なお、月次決算(売上税の予定納税・還付 Umsatzsteuervoranmeldung)は、個人事業であっても法人であってもある程度の売上規模に達すれば、いずれにせよ毎月の申請が必要です。

ドイツで飲食店を個人事業でおこなうデメリット

1. リスクが無限責任になる

株式会社や有限会社のような法人組織のよさは、有限責任であることです。すなわち、いざというときは会社を潰してしまえば、資本金の範囲の損害で収まります。しかし、個人で事業を行うと債務はすべて個人に紐づきます。

リスクのあるポイントは以下の通りです。

  • 賃貸契約は5年から10年の長期が普通である
  • 経営不振で赤字が続いた場合(特に借入のある場合)
  • 店舗における事故の責任(火災、食中毒、近隣住民からの損害賠償など)

このうち最後の、店舗における事故のリスクについては、保険にしっかり入るようにお勧めしています。日本人の保険業者をご紹介することもできます。

2. 税率が高い

利益があがると、法人税よりも所得税の方が税率が高くなります。個人事業の方が社会保険の毎月の支払額を減らすことはできますが、それ以上に毎年の所得税の支払い額が大きくなります。これは利益の大小によります。

3. あくまで個人名。信用面で弱い

銀行口座、従業員との労働契約書、業者からのインボイスなど、すべてが個人名宛になります。店名など商号をつける自由はありますが、オフィシャルな名称には必ず個人名を含まなくてはなりません。

個人でもほとんどの業者とは取引ができますし、銀行融資を受けることは可能です。しかし、一般には法人と比べて信用や評価が下がります。

【まとめ】ドイツ飲食店・個人事業でよいか

以上のように、もし資金があるならば法人にしておいて、自らは資本家として有限責任の立場にいた方が望ましいことがお分かりいただけたかと思います。

最初は個人事業で始めておいて途中から法人化するハイブリッド案もありますが、その際の移管の手間と連続性の喪失が無視できません。詳しくはご相談ください。

ドイツ法人・商号の注意点

商号は定款の絶対的記載事項で、法人設立の工程表の ① に含まれます。

商号に問題があると、商業登記裁判所での登記申請が承認を受けられない場合がありますので注意が必要です(同工程表の ⑤)。

 

商業登記で通らない商号の例

  1. 類似した商号がすでにある(同地域で同じ商号がある問題と、不正競争防止の点での問題と2種類がありえます)
  2. 抽象的すぎるもの(例: Consulting GmbH)
  3. 地域のミスリーディングなもの(会社名に International, Europe, Deutschland という言葉をつけたときに、そのカバーエリアが適切かどうか)
  4. 会社規模がミスリーディングなもの(一店舗だけの小売業に XX Global という商号をつけた場合)
  5. 業種がミスリーディングなもの(銀行でないのに Bank とつける、など)

 

実務上の注意

設立申請が一度裁判所に提出されると、その間の過程はブラックボックスです。一度差し止めが入ると、その連絡と再提出とで数週間の遅れが生じます。

そのため当社では、クライアントの定款作成の前に商号の事前チェックの手続きを入れるようにしています。

Creditreform 信用情報

Creditreform (Crefo) とは何か

Creditreform とは企業信用情報のデータバンクを有し、企業信用度のスコアリングを行っている機関です。ドイツでは一般個人の信用情報として SCHUFA のスコアが有名ですが、企業については Creditreform が相当します。略して Crefo とも呼ばれます。

元々は債務者の信用情報を地方の債権者間で共有し合う信用保証協会のような組合だったようですが、それが大きくなる過程で現在のように企業信用情報のデータバンクになったのだそうです。

Creditreform (Crefo) のスコアが必要なとき

Creditreform レポートの例(出所: Creditreform)

企業が以下のような活動を行うときに求められることがあります。また、個人事業であっても、SCHUFA と並んで Crefo も、または SCHUFA の代わりに Crefo を、求められることがあります。

  • 不動産賃貸契約
  • 銀行融資
  • リース

Creditreform 社の別の仕事

Creditreform は債権回収 Inkasso も兼ねています。すなわち、未払いの請求書など債権が Creditreform に回されることがあります。

Creditreform (Crefo) 信用情報・利用上の注意

債権回収業者としての Creditreform にお世話になってしまった場合には、信用情報のスコアに影響します。

また逆に、多くの企業情報は企業名や住所など基本情報しか入っておらず、ほとんどの信用上の情報が反映されていない可能性があります。つまり、利用者にとって意味のある情報とは限らないことに注意が必要です。

ドイツに進出する理由7選

現地法人の進出先としてなぜドイツが選ばれるのでしょうか?

ドイツは言うまでもなく「欧州政治経済の中心」ですが、それよりもっと実務的な理由があります。

  1. 欧州の地理的中心でもありヨーロッパ各地へのアクセスがよい
  2. ドイツからは日本への直行便が豊富である
  3. Brexit でドイツの重要性が高まっている
  4. 大国・連立政治の安定感
  5. ドイツは英語が通じやすい
  6. 意外に生活費が安い
  7. 治安がよく安定した法治国家である

以下、各ポイントごとに見ていきます。

1)欧州の地理的中心でもありヨーロッパ各地へのアクセスがよい

地理的に欧州の中心にあり、大陸主要都市には1時間前後で、ロンドンへは2時間ほどで飛ぶことができます。

欧州大陸は鉄道網が発達しているので、パリやブリュッセル、アムステルダム、それからバーゼルやプラハなど、各地へ直通の長距離列車も豊富です。

また、アウトバーンを通っての自動車での移動も可能です。たとえば、デュッセルドルフはベネルクス各国へ近く、ブリュッセルやロッテルダムまでは車で2時間です。

2)ドイツからは日本への直行便が豊富である

上述のように、大陸主要都市には1時間前後で、ロンドンへは2時間弱で飛ぶことができます。フランクフルトは欧州でトップを争う空港であるほか、ミュンヘンも十指に入る大型空港です。

ベルリンハンブルグデュッセルドルフ、ケルン・ボン、シュツットガルトなど、他の空港からも欧州各国への便が出ています。

日本へは、なんとフランクフルト、ミュンヘン、デュッセルドルフの3都市から直行便が出ています(東京、大阪、名古屋行き)。他の欧州諸国ではイタリア以外は一都市からしか直行便はないはずですので、これは大きな魅力です。
(なお、コロナ下で変更がありますのでご注意ください。)

3)Brexit でドイツの重要性が高まっている

欧州への営業免許のパスポート無効化でロンドンから全欧州をカバーしていた金融機関は、欧州拠点機能の一部をフランクフルト、パリ、アムステルダムなどに移しました。

関税と貿易事務の増加から、EUとイギリスの間の貿易は激減し、他の多くの業種で欧州拠点を大陸に持つ流れになっています。

これまで英語の利便性からイギリスに多く集まっていた日系企業の欧州拠点も例外ではありません。

その中では、イギリスを除いて欧州拠点として一番選びやすいのが、欧州政治経済の中心であるドイツです。

4)大国・連立政治の安定感

小国では右翼政党が政権をとったり、地方で独立運動が起こったりと政治に安定感がありません。そこが、日本にいては感じにくいビジネスリスクと言えます。

また、コロナの折には「ロックダウンをせずに集団免疫に挑む」といった実験ができてしまうのも小国です。

ドイツでは、CDU と SPD の二大政党が政策面で似通ってきているのと同時に、いずれも単独では過半数をとれず、緑の党(Grüne)や自由民主党(FDP)以下の中堅政党が連立政権に入る形が通常化しています。

変化を求める有権者には歯痒い状態かもしれませんが、ビジネス環境の安定性という意味では政治的安定感が評価ができます。(ただし、やや左傾化・北欧化しつつあることは指摘しなくてはなりません。)

5)ドイツは英語が通じやすい

フランスやイタリアと比べれば、ドイツはかなり英語が通じます。むしろビジネスの場ではほぼ問題なく英語が使えます。

たしかに、北欧やベネルクスの小国のように日常レベルでもよく通じるかというと、必ずしもそうとは言えません。

しかし、フランクフルトシュツットガルトのような外人比率の高い都市や、ベルリンやハンブルグの中心部ではかなり英語が通じますし、デュッセルドルフのように日本人の多い都市では日本語でもある程度暮らしていけます。

6)意外に生活費が安い

ドイツは主要先進国の中では物価、とりわけ生活費が安い利点があります。OECD の統計では、ドイツの物価レベルはちょうど OECD 平均の 100。日本は 113、アメリカは 117、イギリスは 105 と出ています。ヨーロッパでは、スイスが 142、フランスが 98、オランダが 104 など。

イギリスとフランスはロンドンとパリが国の平均を大きく超えていると思われますが、ドイツでは首都ベルリンはむしろ物価の安さで知られる発展途上の都市です。また、国の機能が各地方都市に分かれていることから、他の主要都市でもロンドンのような高物価は見られません。

住宅価格や家賃は、家自体が大きいので単純比較はできませんが、平米単価は安めです。1平米あたりの住宅家賃は主要都市でも 12ユーロ程度(坪あたり 4800円)になっています。

また、食材が安く、重要栄養源のジャガイモはスーパーに行けば 3キロで 1.8ユーロと、食べ切るのが難しいぐらいです。また、スパゲッティーは 500g が 65セントなど、これも非常に安価です。魚介類を除けば食材は安く、自炊をする限りは低コストで生活できます。(注: 醤油や味噌、調味料は、主要都市ならばアジアスーパーで買うことができます。)

7)治安がよく安定した法治国家である

ドイツも移民が多いので、決して治安の心配がないとは言えません。しかし、上の地図のように特に危険度の高い都市はありません(赤に近いほど治安が悪く、緑は治安がよい)。

法に厳格な国家で、その執行人として警察が非常によく機能しています。日常的にパトカーの巡回や警官の見張りがあって、秩序正しく住む一般市民には安心感があります。

また、治安とは別の意味でも、契約通りにことが進む法治国家と言えます。家柄や人種による見えない差別や、マフィアの介在などが見られません。

まとめ

以上、ドイツがヨーロッパの進出先として選ばれる理由・選ぶべき理由を7つご紹介しました。

  1. 欧州の地理的中心でもありヨーロッパ各地へのアクセスがよい
  2. ドイツからは日本への直行便が豊富である
  3. Brexit でドイツの重要性が高まっている
  4. 大国・連立政治の安定感
  5. ドイツは英語が通じやすい
  6. 意外に生活費が安い
  7. 治安がよく安定した法治国家である

より多くの日系企業が、ドイツを拠点に、輸出や海外売上高を伸ばしてくださればと思っております。